人工股関節を長持ちさせるには?
人工股関節の人工軟骨はなぜ減るのでしょうか?
人工股関節置換術後の方で、長持ちする方と長持ちしない方がいます。
不思議だと思いませんか?
人工股関節術後、再置換術が必要かどうかを判断するのは人工軟骨の擦り減り具合で判断するのが一般的です。
人工軟骨を長持ちさせる秘訣は、力を抜いている時に股関節周りの筋肉がどれだけ柔かいかということに尽きます。
力を抜いている時に柔らかい股関節周囲の筋肉群は、足に体重をかけたときに一斉に強く収縮して硬くなります。
その時に、股関節に加わる衝撃を筋肉が吸収してくれるのです。
この記事の4行目で「擦り減り」という言葉を使いました。
「擦り減る」という言葉は、軟骨と軟骨の摩擦で軟骨が減るようなイメージを患者さんに与えているのではないでしょうか。
多くの医師の先生方もそのように考えているため、「足をかばって下さい」「体重を減らして下さい」と指導しているのだと思います
しかし、正常軟骨の場合、正確には“軟骨が擦り減る”のではなく、“軟骨細胞が減る”です。
軟骨細胞が減る原因は2つありました。
軟骨が減る原因も2つです。
- 軟骨軟化症(炎症が無いときにも起きる)
- 股関節関節包内の炎症
つまり、軟骨軟化症による軟骨内への栄養不足と、炎症メディエーターによる軟骨細胞の破壊でした。
これまでの記事では、人間がもともと持っている軟骨の場合の話でした。
人工股関節手術を行うと、軟骨軟化症が起きる軟骨は無くなり人工軟骨に置き換えられ、炎症を起こす股関節関節包は取り除かれますので股関節に炎症は起きなくなります。
また股関節痛を鋭く感じるのも股関節関節包なので、股関節自体は痛みを感じなくなります。
下の図は人工関節の構造になります。
大きく分けると以下の3つからできています。
- ソケット 骨盤側に固定されます。
- ライナー この部分が人工軟骨になります。
- ボール&ステム 大腿骨側に挿入されます。
この3つの組み合わせによって、なめらかな股関節の動きが再現されます。
人工関節の軟骨は、もともとの軟骨とは全く異なります。
軟骨細胞自体が生きているわけではないので、実は人工軟骨に関しては“擦り減る”が正解なのです。
軟骨ではなく骨の話に変わりますが、『骨と骨が当たって痛い』という説明をする医師は少なくないようなのですが、人工股関節手術になると“大腿骨を切断したり、人工関節のソケットが入るように骨盤側の骨に大きな穴を掘ったり、その骨盤の骨にソケットを固定する為に骨盤側の骨に数本のネジを打ち込みます。”
このように文章にすると痛そうですし、『骨が骨が当たって痛い』という理論からすると、人工股関節手術後は骨の痛みのためにしばらく激痛が続きそうですね。
しかし、安心してください。
骨には激痛を感じる神経は無いのです。
従って、人工股関節手術後にはすぐに足に体重をかけていますし、もともと『骨と骨が当たって痛い』ということも正しくありません。
前述の通り、自骨手術後や未手術の方の軟骨は“軟骨細胞が減る”が正しい表現ですが、人工股関節手術後の方の場合は軟骨が人工軟骨になりますので“軟骨は擦り減る”が正解なのです。
では、人工股関節に体重をかけると、人工軟骨は摩擦でどんどん減るのか?
ご安心ください。
人工軟骨も筋肉によって守られているのです。
つまり、股関節に加わる衝撃のほとんどは筋肉によって吸収されるのです。
したがって、私達は人工股関節後の患者さんの股関節周囲筋が正常に働くように手術後も股関節周囲筋をほぐして筋肉を柔かくしているのです。
力を抜いた時の柔かい筋肉こそ“正常な筋肉”なのです。
人工股関節が何年もつかは、この衝撃吸収力にかかっています。
人工股関節手術後に筋肉をほぐして正常化していない方は、股関節への衝撃吸収力が低下するので人工股関節は長持ちしなくなります。
つまり、人工軟骨が擦り減りやすいのです。
一方、人工股関節手術後に筋肉をほぐして正常化を保っている方は、股関節への衝撃吸収力が高まりますので、確実に人工関節は長持ちします。
人工股関節手術後、数年で人工関節がだめになる方もいれば、30年間も長持ちする人がいます。
この違いは、筋肉が正常なのか、筋肉が疲労しているのか、筋肉が病気なのかで決まるのです。
私達は、人工股関節手術前の方には、手術後の経過を良くする目的で深圧を行います。
そして、人工股関節手術後の方には、人工関節を長持ちさせる目的で深圧を行っているのです。
人工股関節手術後には、まず筋肉を正常に戻すこと、そして、その後正常な筋肉で筋トレを行うことが重要なのです。
人工股関節手術後の方でも、股関節周りの筋肉群が非常に硬い方もいますし、非常に柔かい方もいるのですが、この差が人工股関節が長持ちするかしないかの差となります。
人工股関節手術後は、股関節自体に痛みを感じる部分(関節包)が無くなるので、それだけでもとても喜ばしいことでしょうが、術後に筋肉をもっと柔かくする意識を持っていただけるとさらに良いと思います。